質屋の目利きとサラ金の目利き

古典落語の演目に「井戸の茶碗」というのがありまして、ご浪人(主を失った武士のこと)の家に呼ばれたくず屋が、仏像を買ってくれと頼まれるのですが、このくず屋さんは、紙くず専門で仏像の目利きが利かないからと、買い取ることを断るという場面があります。

品物が確かなものかどうかを見極める「目利き」が、商売の成功を左右するということは、今の時代にもあてはまりますが、その最たるものが「質屋」ではないでしょうか。

ここ最近は、リサイクルショップは見かけることはあっても、質屋さんというのは見かけなくなりました。僕は、下町で育ったので、近所に質屋は2,3件あったのを覚えています。たいていは、路地裏の引っ込んだところで、ひっそりと営業していて、入り口に長いのれんがかかっていて、中の様子がよくわからない。たまーに入っていく人も人目を避けるように入っていくので、幼心に怪しげなところだと思っていました。

質屋

いまさら、説明の必要もないと思いますが、質屋さんでお金を都合してもらうには、「質草」という何かしらの金目の物を持ち込まなくてはいけません。

その質草の値によって、借りられる金額も変わってきます。質入れした品物を手許に戻したければ、借りた金に利息をつけて返す必要があります。それができなければ、「質流れ」になって預けたものは帰ってきません。

こんな仕組みなので、質屋さんは質入れする質草が、本物なのか偽物なのか、あるいはいくら位で売れるのかといった目利きができなければ、潰れてしまいます。

万が一、持ち込まれた質草が偽物で何の価値もないものに、お金を出してしまったとしても、後から金を返してもらうことなんてことはできません。また、カネを返してくれなんてことは、言いたくても言えないんじゃないでしょうか。

なぜなら、そんなことをしたら、「私は質屋をやっているのに目利きができません」と口外しているようなものですから、のれんに傷をつけることになってしまいます。

それじゃ、消費者金融のやっていることってどうなの?

質草を取ってお金を貸している質屋と、信用情報を審査して無担保・無保証人でお金をかしている消費者金融とでは、比べる対象が違うと思われるかもしれませんが、似ているところもあると思います。

消費者金融でお金を借りるとき(クレジットカードを作るときもそうですが)は、CICや全銀協などに個人の信用情報を照会されます。ここで、個人の借金の履歴はもちろんのこと、どんな会社に勤めているのかや、家のローンがどれくらいあるのかなどの個人情報を相手にさらけ出すわけです。

さらに、信用情報が照会されたということも履歴に残ります。これを質屋さんに例えると、質草を鑑定することにあたります。もし、ここで質草に価値がなければ「これじゃ、貸せないねぇ」と言って断ります。逆に価値があれば、その価値に見合った金額を貸し出します。(実際は、質草を戻すつもりがあるかないかでも金額が違ったりします。)

消費者金融も質屋と同じように、信用情報に問題がないと判断すれば、融資をするでしょうし、年収が多くて、安定した企業に勤めていたら、たくさん貸すこともあるでしょう。

ここまでの流れは、質屋も消費者金融も似ています。しかし、消費者金融のほうは、融資したお金が返済されなければ、電話や手紙で督促したり、内容証明を送ったりします。それでもダメなら、裁判を起こして、差し押さえをする場合もあるでしょう。

僕は、こういった督促したり、差し押さえをすることを避難しているわけじゃありません。借りた金が返済されなければ、法律に則って回収に走るのは、当然の権利です。しかし、カネを貸す貸さないの判断をしたのは、貸金業者の方で、計画通りに返済されなかったのは、個人の信用情報という「質草」の目利きが利かなかった面もあります。

かつて、消費者金融がまだ「団地金融」と呼ばれていた1960年代は、今のような貸すことが目的のようにも見えるやりかたではなく、回収することを念頭に置いたビジネスでした。

たとえばプロミスは当初、大阪市中心部に所在する官公庁、学校、公社、公団、株式市場1、2部に上場している会社の勤め人でなければ融資しなかった。これは資金量が限られていたためでもあったろうが、やはり客の信用力が最大の理由であったのは間違いない。ごく少人数で事業をスタートさせた彼らにしてみれば、返済の滞った客を「オイ、コラ」と追い回すのは非効率きわまりなく、確実に回収できる客に貸すことが商売のポイントだったのだ。(サラ金殲滅/須田慎一郎 より)

ところが、時代が進むと、ライバル会社が続々と市場に参入してきて、競争が激しくなってゆきます。

貸金業というのは、利息にそれほど差が出るわけでもなければ、どこから借りても1万円は1万円で、お札に色が付いているわけではありませんから、差別化が非常に難しい業種です。そのような差別化が厳しい中で、競合他社に打ち勝っていくには、他より規模を大きくして、利益を上げて、知名度を高めるしかありません。

そんなときに、レイクの創業者である浜田氏が、顧客の信用情報を交換するシステムをはじめます。当初はこのシステムは、借り逃げする悪質な輩を排除することが目的で設立されたようです。

しかし、このシステムが顧客の借り過ぎを防ぐために機能することなく、むしろ、その逆の追い貸しの方に使われるようになります。

しかし業界は、この情報システムを通じて把握した顧客の「限界」を、むしろ貸し込みの方に利用したのだ。限界まで借金漬けになった顧客が綱渡りのような生活に耐え切れなくなり、人生のどん底にまで転落しようとも、商売の来し方を顧みることはなかった。(サラ金殲滅/須田慎一郎 より)

これを質屋に例えると、本来の質草の価値よりもうんと高い金額を貸し付けて、その分、たくさんの金利をとって、金が返せないので、質草を流してくれと、客が言ったら、それじゃ足りないから、追加の質草を持って来いと恫喝する、といったところでしょうか?

もちろん、こんなムチャクチャな質屋さんはいませんが、かつての消費者金融のやっていたことは本質的に、これと似たようなものじゃないでしょうか?拡大路線に乗ってしまい、目利きができなくなったのが、今の金融業界全般に言えると思います。

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