とうとう家まで失う – 債務整理体験談 その7
債務整理の真っ最中に思わぬアクシデントに遭ってしまい、以前の状態、いや、もっとひどい状態になってしまいました。それは、まるで何かに引き寄せられるかのようにも感じられました。
いよいよ、家のローンの支払いがままならなくなってきて、銀行から督促の手紙や電話が来るようにもなっていました。
さらにその頃、プライベートなことで、面倒なことに巻き込まれてしまい、ある市議会議員から訴訟を起こされる寸前まで行ったり、嫌がらせの電話がしょっちゅうかかってきたり、朝の6時に自宅に訪問されたりと、借金以外でもかなり厄介な問題まで抱えてしまっていました。
具体的なことは、言えないので読んでいる方も歯がゆい感じかもしれませんが、この頃は、同時にたくさんのトラブルを抱えてしまって、本当に不眠不休で活動していた感じです。近くのクリニックで点滴を受けてから、夜、アルバイトに通うような日もありました。今思い返しても、よくあれで死なないなと自分でも思います。
ただ、こうした経験が今の人生に直接、役立っていることは、あまりないのですが、一つだけはっきりと言えるのは、「人間的に強くなった」ということです。まぁ、そんなふうに解釈でもしないと、やってられないという面もあるのかもしれませんが、困難が人を成長させることってあるんじゃないかなって、感じます。
マイホームの任意売却を決意
あるトラブルに巻き込まれたことで、当時住んでいた地域への愛着はいっきに消え失せたこともあって、家を売り払いすべての借金を清算することを決めました。どのみち、特定調停で約束した支払いが困難になってしまったのですから、いつ貸金業者から自宅を差し押さえられるかもわかりません。(もっとも、ローン付きの家には銀行の抵当権がついてるから、本当にやるかわかりませんが。。。)
本来なら、ここで自己破産を申請して、家や財産を失う代わりにすべての借金をチャラにするのが、妥当な選択だったのかもしれません。しかし、僕は(借金を)返せる可能性があるなら、少しでも返したいと思っていましたし、やっぱり自己破産というものに偏見を持っていました。「自己破産をするなんて、完全な負け犬だ」くらいの感覚でした。すでに十分負け犬なのにおかしな考え方でした。
で、住んでいる家を売って、売れたお金を銀行に支払う「任意売却」をしようと思ったのですが、そんなことを銀行が認めるはずがありません。ローンで買った住宅は、いくら「マイホーム」だと言っても、ローンを払い終わるまでは自分のものではありません。勝手に家を処分したりできる権限などまったくないのです。銀行は「そんなに売りたきゃ、残りのローンをすべて払ってからにしてください。」と言ってきます。
これも、おかしな話です。ローンが払えないほど、お金に困っているから何とかしたい、と言っている人に住宅ローンの残債を一括で、払えるわけないにきまってます。そんな金があったら、返済も滞らないし、そもそも、借金してまで家なんか買わないでしょう。
ということで、僕は任意売却の相談に乗ってもらえる法律家にお任せすることにしました。最近は、銀行も比較的柔軟になって来たのかもしれませんが、当時はまだ、任意売却というのは一般的ではなく、銀行に問い合わせても「そんなことできるはずがない」とか、任意売却の意味さえよくわかっていない行員もいたくらいでした。
ここで「任意売却」についてちょっと説明しておきます。任意売却とセットで出てくる言葉に「競売」があります。競売のほうがよく耳にしたことがあるんじゃないでしょうか。
競売は、住宅ローンの支払いができなくなった物件の抵当権者(ほとんど銀行ですね)が、強制的にオークションにかけて、売れた金を手に入れる方法です。もちろん、その家の住人には住む権利はありませんから、立ち退かなくてはいけません。
それに対して、任意売却は、こちら側から率先して家の売却をするわけで、売り先は(ある程度)自由に決められます。ケースバイケースですが、競売よりも任意売却のほうが、高く売れる傾向があります。つまり、任意売却で家を処分したほうが、ローンの残債を少なくできる(可能性が高い)というわけです。
というわけで僕は、任意売却で家を売ることに決めました。そのためには、銀行からOKをいただかなくてはいけません。まずは専門家のアドバイス通り、住宅ローンの支払を一切止めました。それまでは、多少遅れてでも支払っていましたが、もう一切払いません。
当然、銀行はいろいろと言ってきます。「ローンの組み換えで、月々の支払を下げることができます。」と言ってきたかと思えば、「今すぐ、全額耳そろえて払ってもらおう」(こんな言い方ではないですが)とか、「このままでは競売にかけられて、家を失いますよ。」(だから失いたいんですよ)とか、それまで僕が単独で、交渉しても耳を貸さなかった銀行の態度が変わってきたのが、不思議に思うと同時に滑稽でした。あらためて、専門家の持っているノウハウに感心しました。
そんな銀行との攻防を続けるうちに、しだいにこちらの主張に耳を傾けてくれるようになっていきました。そして、最終的にしぶしぶですが、任意売却に応じる形になりました。
ただし、ここで安心してはいられません。家の売却先や仲介する不動産屋を銀行に任せてしまうと、主導権を向こうへ渡してしまうことになります。あくまでも、こちらが用意した不動産屋さんに専属専任媒介契約をしてもらわなければいけません。
ちょっと、難しい用語が出てきましたが、カンタンです。要は今住んでいる家の売却をこちらが決めた、特定の不動産屋さん1社だけに限定するということです。
何でそれが大事なことなのか、疑問に思うかもしれませんね。もし、仮に銀行主導で任意売却されたら、どうなのか想像してみてください。銀行の立場からすれば、そんな不良物件なんて今すぐにでも売り払いたいと思いますよね。下手をすると、今すぐ買ってくれるなら、うんと安く売ったっていいと思うかもしれません。安く売れて、ローンの残債がたくさん残っても、払うのは債務者のほうだから、構わないという考え方もあります。(もちろん、債務者が払えなければ銀行も損しますが)
それと、僕としてもあまり早く売れてしまっても困るのです。なぜなら、次に住むところを探さなくてはいけないですし、ローンの支払いをストップしているということは、タダで家を借りているのと同じことですから、この間に貯金もできるというわけです。だから、できるだけ時間を稼ぎたいので、売却の主導権はこちらがとりたいのです。
結局、半年以上はローンも払わず、タダで家に住んでいたことになりますが、いつまでもそんな生活を続けられません。次に住む場所を探しつつ、引越し費用を貯めておきました。
注)このやり方は、あくまでも過去の僕のケースに過ぎませんので、これをそのままマネしたりしないでください。
必ず、法律家や専門家のアドバイスに従うようお願いします。
買い手が決まる。日本の家って価値ないね。
僕が、任意売却を決意して1年近くがたったころ、ついに買い手が現れました。
その時は、すでに引越し先も決まっていたので、タイミング的には良かったのですが、僕が思っていたほどの金額にはなりませんでした。
売却した家は、10年ほど前に2800万円ほどで、購入した(そのうちローンを組んだのは2500万円)のですが、1000万円くらいで売却されました。本当は、もうちょっと高くても売れるだろうと不動産屋さんも見積もっていたようですが、いたずらに時間を引き伸ばして、銀行の心象を悪くしてもよくないとの判断で売ることにしました。
まぁ、それにしても日本の住宅って、本当に払っただけの価値がありませんね。10年も住んだら、価値が3分の1に下がるなんて、おかしな話です。3年使ったMacBookをヤフオクで売ったって、半値以上で落札されますよ。(比べるものが違いますが。。。)
ということで、僕は住むところを失い、地方へ移住することになります。
相変わらず、借金を抱えた状態ではあったのですが、逆に失うものは何にもなくなったわけです。人間って、失うものがなくなると、考え方まで変わるものですね。
何か、これまで囚われていたものがなくなると、何であんなもののために神経をすり減らしていたんだろうと思えるようになってきます。
そうなってくると、それまでとは逆に物事が良い方向へ向いたりするから不思議です。